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春も間近な弥生の手前。
年末年始の慌ただしさとか、
冬場に多い小火や放火騒ぎなどなどといった例年通りの通報案件へ、
招集掛けられるたびに寒い中だってのに億劫だのどうだのと飛び出してた愚痴の頻発も
何とか収まりそうな 今日この頃だったが、
「…あのですね。
のすけちゃんの様子、変じゃないですか?」
「……え?」
「ってゆうか。最近 のすけちゃんと会ってますか?」
臨機応変が利くようにか、はたまた緩急自在を求められるからか、
それとも各々の個性が大事と思われているからか、
探偵陣、正式にいうところの “調査員”に
何かしら服装への決まり事やら制服やらは義務付けられてなく。
蠱惑的な肢体へのカモフラージュか、それとも単なる無頓着からか、
ちょっとマニッシュな印象を受ける、足元まである長外套が常服のような太宰なのに対し、
そちらはどこぞのウェイトレスだと言っても通じそうなそれ、
清楚なブラウスに活動的なミニのキュロットパンツを合わせた
いかにも十代の少女らしいいでたちのお嬢さんは中島敦といい。
日本人には珍しくも白銀の髪に玻璃玉のような透いた双眸という淡い色彩をし、
まだまだいろいろと無垢な内面そのままに、それは幼げで、ふんわり大人しげな風貌にもかかわらず、
実は 異能として “月下の飢獣”、それは巨大な白虎をその身のうちに飼っている。
聴覚や嗅覚、視力や反射などなども、野生の虎のレベルにてその身へと降ろすことが出来、
手足を虎のそれへと変化させることも出来るので、腕力脚力も常人の域を超えたそれを発揮出来。
くどいようだが この愛らしい見かけによらず、
本気で臨戦態勢に入ればゴジラも真っ青の破壊力を発揮するおっかない子だったりする。
「もーりんさん、それは言い過ぎ。」
「力自慢とか頑丈さでは賢治ちゃんの方が上ですよぉ。//////」
ああ、すまんすまん。(笑)
とはいえ、外傷を負ってもすさまじい再生力が働くので、
極端な話、某異能力者により脚を噛み千切られても その場であっという間に復活させた逸話は有名。
そんな身なせいか、自身を盾にするよな捨て身の攻勢に走るもんだから、
それへ対して四方八方からお叱りを受けまくってるお嬢さんでもあり。
昨夜の辻斬り…もとえ、“無差別襲撃騒ぎ”への対処にもしっかりと駆り出されていて、
容疑者にはあいにくと遭遇もならずで荒事にはならなんだが、
次々に発生する事案へ、後追いという格好になりつつも現場まで馳せ参じ、
中には瀕死状態の被害者もいたものを順次病院へと搬送したり、
重々警戒しつつ周辺地域の警邏に回ったりと、それはそれは忙しく過ごしており。
そんな大騒ぎの翌朝とあって、他の社員らも軍警との連絡や事後報告やら何やでややピリピリしている中、
だってのに 暢気に眠い眠いとだらけていたところを
さっそく五月蠅さ方の国木田さんから叱られたばかりというお姉さまへの声掛けだったのは、
割と空気を読めるようになったこの子にしては珍しい。
……と思っていたらば、何だか微妙な存在の名が出て来たものだから、
太宰の側でも意外に感じたか、
おややとアーモンドのような冴えた双眸を一瞬見開いて
ほぼ素のお顔でキョトンとして見せてから、
「…のすけちゃんって、あの子のことだよね?」
確かに絶世のと冠していいほどの美人だが、
同僚同士という間柄にて気を許してのこと、すっかりとだらけて職務をサボっている怠惰な姿も見ているし、
隙あらば姿を晦ませて どこぞで入水だの首つりだのと物騒な趣味に勤しむという、
自殺嗜好などという困った性癖も重々知っているものだから。
余程 故意にキメて見せでもしない限り、破格の美々しさにも随分と慣れてしまったもの。
もはやだらしないという要素の方が勝っているせいか、
近寄りがたいのどうのと いちいち怖気てしまうよな間柄じゃあないのはいいとして、
この教育係さんとは、非常に微妙な“内緒”も共有している間柄な敦ちゃんで。
共闘もしなくはないが、基本 敵対組織であるポートマフィアとの
ご縁というか関わり合いというかで、
お互いに皆にはナイショで融通し合っている事情を持ってもおり。
そこのところ、清濁合わせ飲めないだろう 某“正義の人”に聞かれると
ややこしい悶着になりそうなので拾われちゃあ困るものの、
でも、取り急ぎ訊いときたいことだったのか、こんな風にこっそり訊いて来たらしい。
そういった機微へはさすがに素早くピンと来たものの、
「変って。
というか、この何日か巡り合わせが悪いみたいで会えてないのだよね。」
裏社会の雄、ポートマフィアとは、
近年の国外勢力の急襲にあたり頻繁に共闘してきたその流れから、事実上“停戦状態”にある。
血と暴力と恩讐の組織であるポートマフィアに対し、
こちらは政府管轄の公的な警察組織とつながりが強く。
いまだ日本では公的に認知されていない“異能力”の扱いにおける 飛び道具のようなもの。
特殊極まりない異能の絡む難事件の発生へ
異能特務課が辻褄合わせに奔走するのと似たような立場にあたり、
こっちも特殊な異能を持つ社員らが奔走し、
生身で爆破や災害レベルの騒ぎを起こせよう存在が絡む事案のその収拾と解決にあたる組織であり。
その点も公には出来ぬ話だが、それ以上に暗黙の了解となっているのが、
知識や作戦における才が突出していて主軸社員でもある太宰嬢が実は元マフィアであったこと。
書類上は戸籍も洗浄されており、そんな痕跡など突き止めようがないのだが、
知る人ぞ知る、十代で闇世界最強の双黒として名を馳せた恐ろしい存在で。
「いやぁねぇ。そんなおっかないもんじゃありませんよぉvv」
「太宰さん、笑顔が怖い。」
武装探偵社は、表面的には軍警や時々は市警の協力も手掛ける社ということになっているが、
その実、そちらも存在しないこととなっている内務省異能特務課より異能許可証を貰っている異例の事務所。
日之本では公に認められてない異能に対処する術を持つ特殊な捜査組織であり、
捜査や追跡、容疑者確保における技術が秀でているのみならず、
公には記録を残せない対処を取らざるを得ないよな、異能者確保の詳細を任せ切る上でも頼りにされており。
だから…という特別扱いやら、見ないふりをされているわけでもないが、
この街の暗部の頂点たるポートマフィアとは、
共闘を組んだりした実績や、それ以前の関わり合いが多々あって。
実際に協力し合ったゆえに得た蓄積やら 色々と錯綜した事情の下に、通じているところがなくもなく。
決して慣れ合っているということではないのだが、
そんな事情の中、太宰がかつてそちらの幹部だったという事実も含まれている、という順番だろうか。
「中也からの伝言なのかな?」
「それもありますけど…。/////」
現在の五大幹部の一人とひょんなことから意を通じ合い、
それは睦まじいお付き合いをしている敦ちゃんだというのもその内緒の一つで。
その幹部様、実は太宰とは かつて裏社会最凶と呼ばれていた相棒でもあって。
無論、結託という意味合いで通じ合っているということはないままに、
むしろ…そちらの立場では抹殺や鏖殺でしか処せぬだろう事案を横取りして
余計なお世話ながら 公の耳目という陽に当ててしまえという
ちょっかい掛けに勤しんでいるほどの相性なのは相変わらずだし、
同じ対象への“仕置き”と“対策”がかぶった折は、壮絶な叩き合いになってもいる。
そんな実戦の場で、ここ最近直接当たり合っているのが、この敦嬢と 向こうの禍狗姫こと芥川という少女。
ほぼ生え抜きと言っていいほどの生粋のマフィアの嬢であり、
行く手を遮るものは己の手腕で刈っていいという認識で行動する殺伐系。
双方ともに戦闘向きの異能を持ち、
単に敵対組織の人間同士だからというだけじゃあなく、
微妙にややこしい因縁まで絡んでのこと
初見からこっち 色んな事が絡まりまくったまんまの状態で激しく反目し合っていたれども。
そのややこしい因縁が何とかほどけてからこっちは、二人の間の空気もガラリと入れ替わり、
こそりと非番を教え合い、街歩いを楽しむほどの間柄。
問題の“因縁”の元凶でもあるがため、そういったややこしい事情も勿論のこと把握している太宰としては、
「なになに、まさか昨夜のどさくさにでも あの子に会ったの?敦クン。」
「会ったってゆうか…。」
そんな穏やかなものじゃあなかったからこそ気になったのか。細い眉をぎゅっと寄せたまま、
「向こうも任務中だったのかサッと通り過ぎてって、擦れ違ったような格好ではあったんですけど。」
ちなみに、深夜だったし若しかせずとも向こうも任務ででもあったのか、
いでたちはいつもの黒い長外套姿だったらしく。
昼間は文系の女子大生風に変装しているからさほど目立ってはないけれど、
深夜の夜陰にその存在を見かければ、
真正のマフィアであろうそれ、少なくはなく背条が凍るだろう冷ややかな印象をまとっており。
陶貌人形のような凍るような冴えた美貌が ますますと作り物の様な怖さをおびる。
「その擦れ違いざまに、こう言われたんです。」
そこで言葉を区切った白虎のお嬢さん、
ちらと周囲を視線だけで素早く見回し直してから、
おもむろに小声で付け足したのが、
「太宰さんは息災か、って。」
「………はい?」
息災すぎて現在の相棒様から相変わらずに怒鳴られまくってた
グラマラスでハンサムなお姉さま。
思いもよらない伝言へ、ついのこととて再び目を見張ってしまわれたのだった。
to be continued.(20.02.28.~)
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*ウチならではな間柄をちょこっとお浚い。説明まるけですいません。

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